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ランキングアイコン特別企画:哲学書ランキング

第1回結果発表(2008年04月〜2008年09月)

集計結果

哲学書・私のベスト5

インデックス

哲学道場レギュラー参加者 hiropon

【ベスト5】

  1. 上田閑照『道程:思索の風景』(岩波現代文庫)
  2. 岡田温司『イタリア現代思想への招待』(講談社選書メチエ)
  3. 高山岩男『高山岩男著作集 第4巻 世界史の哲学』(玉川大学出版部)
  4. 大澤真幸『<自由>の条件』(講談社)
  5. 東浩紀ほか編『思想地図 vol.1』(NHKブックス別巻)

【コメント】

最近京都学派の哲学に興味があり、今回の書物の選定にもその興味の方向性が濃く影響した。上田、高山の著作を上位に挙げたのはこのような理由からである。上田は西田幾多郎、西谷啓治といった仏教の哲学化の流れを汲む人である。自分が仏教に興味が持てるとしたら主にこういう哲学からの回路になるかと思う。哲学をありがたく思うのは、哲学はほとんど何でも対象とすることができるがために、哲学に関心があると何にでも興味を向け得るからだ。哲学を通すがゆえに自分が興味の持てる分野としては、他に芸術がある。美術や音楽の鑑賞は楽しく感じるが、いずれもその制作面には携わったことがないので従来はよそよそしく接していた。芸術の哲学、つまりは美学だが、これを通して芸術作品を見ていると、作品を完成させるのは鑑賞者であるということを強く確信できるようになる。鑑賞もまた芸術への参加なのだと思えるようになった。岡田は美術史家として少し前から親しい名前だったが、今回は哲学入門書を著しているということで最初は驚きがあった。イタリアで現在活躍している思想家で、この書物で取り上げられている人たちは皆美学を出発点としているということで、美術史家がこのような書を著すという事情に納得した。大澤や東の著作をこれまで多く読んできた。自分は言わばこれらの著者のファンであり、それゆえやや食傷気味でこれらの本も書店で手に取り軽く眺めただけなのではあるが、ランクインさせることにした。

サラリーマン 阿川耕三

【ベスト5】

  1. バークリ『ハイラスとフィロナスの三つの対話』(岩波文庫)
  2. 木田元『木田元の最終講義 : 反哲学としての哲学』(角川ソフィア文庫)
  3. 中島義道『カントの読み方』(ちくま新書)
  4. 長谷川宏『格闘する理性 : ヘーゲル・ニーチェ・キルケゴール』(洋泉社MC新書)
  5. 高橋昌一郎『理性の限界 : 不可能性・不確定性・不完全性』(講談社現代新書)

【コメント】

1.フィロナス(バークリの分身で非物質主義を主張する)が終始優位に立って対話は進んでいき、だんだんハイラスがかわいそうになっていきます。ハイラスはかなりがんばりますが、最後は自説の物質実在論から転向してしまいます。途中でハイラスを応援して議論に参加したくなりました。

ハイラスの最も鋭い指摘は、物質的実体が心の外にないのだとすると、どうして複数人の知覚が一致するのか、という第三対話における反論だと思います。

2.エルンスト・マッハについての講演がいいと思いました。マッハは、<力学主義的物理学>に対して<現象学的物理学>を主張する。進化論を作業仮設とし、人間の思考・認識能力も動物が環境に適応するための認知能力であるとする。認知能力が進化すればもっと違った感性的諸要素の連関が現れる。ところが力学的自然観は力学を絶対化し形而上学的実体に仕立てる。ニーチェとの類似も興味深いです。

3.『純粋理性批判』の第一版に基づいて難解なカントの自我論を解読していきます。しかし超越論的主観〜超越論的統覚が内容空虚なあるもの<etwas>(意識の単なる形式)としてどうして客観性を与えうるのか、超越論的観念論ではどうして外的世界も内的世界と同様に確実な表象なのか、やはり難しくてよくわかりませんでした。

4.『精神現象学』はヘーゲルの他の著作と一味違います。それは歴史や時代をつらぬく世界精神や普遍的理性が前提されず、「意識にとって」という経験の渦中の視点から出発するからです。しかしその自己意識も他者との生死を賭けた闘争によって没落・解体にいたり、それゆえに「事の真相をとらえるわたしたちの目」という哲学者の視点が導入される。なるほど、よくわかりません。

5.哲学道場で崎山さんが読んでいると聞いて僕も読んでみました。人間が理性的に思考しても最適解を出すことができない場合がある事例を紹介していますが、本当に理性的な人間なら思考に適当に柔軟性を入れて準最適解にたどりつける場合が多いのではないかと思いました。

Web文芸評論家 松平耕一(ブログ:文芸空間外部リンク

【ベスト5】

  1. 宇野常寛『ゼロ年代の想像力』(早川書房)
  2. 大塚英志・東浩紀『リアルのゆくえ』(講談社現代新書)
  3. 松本哉『貧乏人の逆襲』(筑摩書房)
  4. 速水健朗『ケータイ小説的。』(原書房)
  5. 大澤真幸編『アキハバラ発〈00年代〉への問い』(岩波書店)

【コメント】

2009年の初めに行われた思想地図シンポジウムVol.3「アーキテクチャと思考の場所」では、宇野常寛と濱野智史が発表を行い、浅田彰と宮台真司がこれを批判し、東浩紀が若手を擁護し場をとりなした。宮台による「どっちみちアホばっかりなんだよ、日本全体が前向性記憶障害にかかっている」という発言は、現代における批評の臨界というものを示している。

大塚英志、東浩紀の『リアルのゆくえ』では、モダン派の大塚とポストモダン派の東が、公共的に生きることは可能かという問題をめぐって意見を戦わせる。大塚による東批判は、2008年年末、「南京事件」をどう評価するかという問題をめぐって、はてなダイアラーたちによる東浩紀糾弾事件として反復された。ネットにおける言論は人々の思惟のすれ違いが如実に露出される。速水健朗の『ケータイ小説的。』では、ケータイ小説を扱うことで、ヤンキーたちの生活を分析している。ケータイ小説は、その内部にも、ある種の力学が働いていて、そこには知の体系といったものが観察される。しかしたとえば、彼らに「南京事件」について啓蒙する必要はあるのだろうか。松本哉は『貧乏人の逆襲』にて、「タダで生きる方法」を提案している。本をまったく読まないという松本だが、その風貌は古代ギリシャ哲学者の一人物を思わせる。この期のもっとも問題提起的な書は、宇野常寛の『ゼロ年代の想像力』であった。宇野の哲学的教養のなさは驚くほどである。斧や銃などを使わずに、素手だけでゼロ年代の文芸評論を著し、大きな成功を収めている。大澤真幸編『アキハバラ発〈00年代〉への問い』では、濱野智史による小論が面白い。2ちゃんねるにおけるVIPPERの問題に言及しつつ、この事件をとらえている。

ゼロ年代の二大事件には、01年の同時多発テロと、08年のアキハバラ事件がある。この二つの難題への解決策はいまだ見つかっていない。知の構築は必要である。

マンガ/マルクス趣味 周睡

【ベスト5】

  1. バークリ『ハイラスとフィロナスの三つの対話』(岩波文庫)
  2. (該当作なし)
  3. (該当作なし)
  4. (該当作なし)
  5. (該当作なし)

【コメント】

2008年中に出版された哲学書の中で読んだ本はこれだけでした。「存在することは知覚されることである」という言葉で著者は有名です。

科学的認識を経験によりA=Bのような対応関係が成立すること、とまず定義しながら、その不可能性から神の存在を説明する。

私は著者の立場を肯定するものではないけれども、構成主義的な世界・認識観がもたらす逆説の良い見本だと思います。

文筆家・ゲーム作家 山本貴光

【ベスト5】

  1. H.I.マルー『アウグスティヌスと古代教養の終焉』(知泉書館)
  2. 桑木厳翼『日本哲学の黎明期――西周の『百一新論』と明治の哲学界』(書肆心水)
  3. 麻生義輝『近世日本哲学史――幕末から明治維新の啓蒙思想』(書肆心水)
  4. 『思想 2008年7月号』(岩波書店)
  5. 会田弘継『追跡・アメリカの思想家たち』(新潮選書)

【コメント】

ここのところ、古今東西の学術の歴史について追跡していることもあって、学知が生まれ、制度化されてゆく過程や、それが文化間を移動・移植される場面にかかわる書物を読んでいます。

上記のうち1から3は、そうした関心から注目した書目です。マルーの書物を含め、いずれも現代の日本における哲学・思想や教養の在り方に少なからぬ影響を及ぼした人物やテーマを扱っており、アカデミアやその内外を含む現代社会における知の在り方(有り様)を考えるうえでも興味が尽きません。この3冊の版元である知泉書館と書肆心水は、現在もっとも気になっている書肆の一つです。

『思想』の「ジョン・マクダウェル――徳倫理学再考」は読みごたえのある特集でした。昨今、新しい思想誌の試みが生まれては消えてゆくなかで、『思想』が息長く健在であることは頼もしいことです。岩波書店では、バークリの新訳もありがたい一冊でした。

昨今の政治経済状況に接して、否応なくそうした現実と哲学や思想という営為の関係/無関係について考えさせられます。5は保守からリベラル、あるいはリバタリアン(自由至上主義者)にいたる11人の思想家たちの肖像に、現代のアメリカを重ねて見せる佳作です。仲正昌樹『集中講義!アメリカ現代思想』(NHKブックス、2008/09)との併読をお勧めします。

最後に、今回のアンケートの趣旨からは外れてしまいますが、芹沢一也さんが始めたSYNODOS(http://kazuyaserizawa.com/外部リンク)というさまざまな思考を交流させる試みにも注目しています。

文士 谷口一平(ブログ:火星の城砦外部リンク

【ベスト5】

  1. 向井周太郎『生とデザイン かたちの詩学I』(中公文庫)
  2. ジル・ドゥルーズ『ニーチェと哲学』(河出文庫)
  3. 中島義道『カントの読み方』(ちくま新書)
  4. 東浩紀・北田暁大〔編〕『思想地図 vol.1』(NHKブックス別巻)
  5. 加藤尚武『「かたち」の哲学』(岩波現代文庫)

【コメント】

向井『生とデザイン』は、宇宙のリズムでありその淵源的ゆらぎである「身振り」から、生の全体性を担うものとしてのデザインを考え、近代以後の芸術の流れをさまざまな角度からふりかえってゆく。図版が豊富であり、読み物としても面白いうえ、著者の視軸はぶれることなく、西欧近代の文化とデザイン、ひいてはその日本への反映まで読みぬいてゆく。

ドゥルーズ『ニーチェと哲学』は、待望の新訳。もう少し書きようがあるのではないかと思えてならないでたらめな悪文、とにかくなにかが言いたいことしか伝わってこない沸騰した熱意、これはある意味でじつに哲学的な書だ。読めたものではないと思うが。

中島『カントの読み方』は、日本の第一人者による、カントのテクストの精緻な読解である。「紹介」ではなく「読み方」なので、たしかにやむをえないこととも思うが、構成がはっきりせず、カントを知らない読者には目的地不明のまま引きずりまわされているような感もあり、点をからくした。

東浩紀ほか編『思想地図 vol.1』は、たいへん刺激的な論考に充ちており、知的亢奮を約束してくれる。哲学といえるかという点と、評者が本質的に「雑誌」形式を受けつけない体質なので、その分を差し引いたが、単純に面白さということでは今期の一番だった。

加藤『「かたち」の哲学』は、哲学書ながら「双子の姉妹に恋した男」という物語仕立てになっており、西洋哲学史を「かたち」という主題から通観する。ただ、仕掛けとして物語がうまく機能していない点、論述が分かりにくい点、著者には「主観という概念のいかがわしさ」を指摘するという明確な目的意識がありながら、一読したところでは博物学的興味にとどまっているようにも思えてしまう点、などをマイナスした。

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